Market Quality Workshop 第13回が開催されました

market-quality.net の記事『Market Quality Workshop第13回 が開催されました 』(2013/3/4) より転載

3月4日に京都大学経済研究所(総合研究2号館)にて,第13回 Market Quality Workshop が開催されましたのでご報告いたします.今回は当研究プロジェクト Market Quality Research Project と先端経済理論の国際的共同研究拠点との共催にて開催されています。

◆ 安本晋也(京都大学)Longitudinal Trends in Equity of Park Accessibility in Yokohama, Japan: An Investigation of the Role of Causal Mechanisms

Environmental Equity とは,年齢や所得水準といった社会的属性に関わらず,人々が環境リスクの負荷や環境アメニティへのアクセスを等しく有している状態のことです.

 このenvironmental equityは人々の健康や貧困の問題と結びついています.1970年代の米国内で,廃棄物処理場などから生じる健康被害へのリスクが認知され始めました.またこれらの施設の設置は貧困層がクラス地域に集中しており,1980年代の実証研究ではこれらの地域ではenvironmental inequalityが観察されたようです.

 1990年から2000年代になると,環境リスクだけでなく,公園や医療施設といった環境アメニティへの近接性をめぐるequityも提議されるようになり,ヨーロッパやオセアニアでもenvironmental equityの研究が始まりました.

 しかしながら,日本ではこのようなenvironmental equityの研究はまだ行われていないようです.安本先生は横浜市のデータを用いてequityについての研究を行われ,その分析と結果に関する報告を行っていただきました.

◆ 萩原里紗(慶応義塾大学)Change of Female Life Satisfaction and Happiness before and after Special Life Events

女性の生活満足度(Life Satisfaction)や幸福度(Happiness)は、結婚や出産といったライフイベントが起こった前後でどのように変化するのでしょうか.

 萩原さんは,この問題について「消費生活に関するパネル調査」のデータを用いて実証分析されており,その結果に関する報告を行っていただきました.

 その中で,結婚や出産は女性の生活満足度と幸福度に強い影響を持つこと,生活満足度と幸福度は所得,労働時間,家事時間と夫のサポートに影響を受けること,また生活満足度は平均周辺を推移していてライフイベントが起こった時には平均から乖離するが,イベント前の平均水準にいずれは戻ると考えるセットポイント仮説は,日本のデータを用いた本研究では妥当しないこと,などが報告されました.

 

Market Quality Workshop 第14回が開催されました(2013/03/19)

平成25年3月19日に京都大学経済研究所三田オフィス(東京)において,第14回 Market-Quality Workshopが開催されましたのでご報告いたします.

今回は古川雄一先生(Simon Fraser University, Chukyo University)に”Perpetual Leapfrogging in International Competition”と題する研究報告を行って頂きました.

歴史的に見て,幾度となく技術水準のリーダーがある国から別の国へと移ってきました.リーダーである国は技術の比較優位を持っていますが,比較優位のなかった技術的に後発の国がイノベーションなどによってリーダーを追い抜かすという現象が生じてきました.このような現象はleapfrogging(蛙飛び現象)と呼ばれています.

なぜleapfroggingは生じるのか,また繰り返し生じるのはなぜかという問題は経済学者の関心を集めてきました.先行研究でもこれらを説明する試みがなされてきましたが,十分とは言えませんでした.古川先生は,これら2つの問題を同時に,また市場均衡の結果として説明するような内生的モデルを提示されています.


Market Quality Workshop 第12回が開催されました(2013/02/14-15)

2月14日に京都大学経済研究所,15日にコープイン京都において第12回 Market Quality Workshop,

Economic Crisis and Market Quality が開催されましたのでご報告します.

2月14日

◆ 小松原崇史(京都大学)家計パネル調査データでみる証券市場


2004年度より毎年家計パネル調査が行われており, 2011年度より特別推進研究「経済危機と社会インフラの複雑系分析」もこの家計パネル調査に参加しています.

 今年度より証券市場に対する意識調査が新たに追加されており,前回に引き続き小松原先生に調査で使用した質問票と得られたデータの特徴についての解説をしていただきました.今回の報告では,新たに行われた計量分析についての結果も解説していただきました.

 本研究は現在進行中ですので,詳細な実証結果は書籍・論文の刊行をお待ち下さい.


2月15日

◆ 東三鈴(千葉経済大学)Two-Sided Transfers from Adult Children of Elderly Persons


現実の経済において,多くの中年(成人)世代が若年世代(子ども)を育てる一方で,老年世代(親)の補助・介護などを行っています.先行研究では子どもをもつ中年世代は老年世代への補助・介護をあまり提供しないという逆の結果が得られています.しかしながら,the Health and Retirement Study (HRS)のデータからは,そのような中年世代のなかで子どもへの人的資本投資をするほど,より老年世代への補助・介護を提供する傾向があるという逆の結果がわかるようです.

本研究では,データから得られる事実を説明する理論モデルとそれを実証的に支持できる例を示しています.理論モデルにより,中年世代は若年世代である子どもが将来自身の補助・介護をしてくれると予想するときのみ老年世代への補助・介護と若年世代への人的資本投資としての所得移転を行い,そのように予想しない時には自分自身で将来の介護費用への貯蓄を行うことが報告されました.



◆ 太田塁(千葉経済大学)The “Law of Rising Price” in an Imperfectly Competitive Declining Industry


完全競争市場では一般的に需要が衰退するにつれて製品の価格が低下することが分かっています.しかし,いくつかの衰退産業では需要が衰退するにつれて製品の価格が上昇することが観察されます.

 本研究では,この事実を説明する理論モデルを構築し,それを実証的に支持する例を提供することを目的としています.具体的には,消費者数の減少による需要の低下をその産業(市場)の衰退と捉え,参入・退出が自由なクールノー競争のモデルを用いることにより製品価格の上昇を理論的に説明しています.また日本の木製テーブル市場のデータを用いて,この理論モデルが支持されることが報告されました.



◆ 藤生裕(千葉経済大学)Motive for Two-Sided Intergenerational Transfers


一般には,ある経済主体が別の経済主体への利他性(altruism)を有すると,その方向への所得移転が行われ,利他性の上昇によりその移転の程度が高まると信じられています.

本研究では,親から子供へ,また子供から親へという双方向の利他性が存在する経済における世代間の所得移転に関する理論的分析が行われています.特に親から子どもへの利他性が変化したときと子どもから親への利他性が変化したときを考え,所得移転がどのように変化するかに注目しています.

主要な結果として,親から子どもへの利他性が大きくなるときは,親から子どもへの所得移転は増加するものの,子どもから親への利他性が小さくなるとき,ある状況下では子どもから親への所得移転が増加することが示されました.



◆ 瀬古美喜(慶応義塾大学),直井道生(東京海洋大学)Subjective Belief, External Information and Earthquake Insurance Purchase: Evidence from Post-Quake Japanese Data


2011年に起きた東日本大震災により改めて日本における大地震の危険性と災害を軽減する十分な測定の必要性が明らかになりました.その中でも地震保険は地震災害を軽減する最も重要な測定する方法の1つです.しかしながら,日本では災害への意識は高まっているものの,家計の地震保険加入率は依然として高くはありません.

本研究では,このような家計の行動を説明するために,最適期待の枠組みを用いて家計の保険購入のモデルを構築し,家計の保険契約に関する行動の観察されたデータを用いて理論の帰結を検証しています.

実証結果はモデルから導かれる主要な帰結を一般的に支持しており,以下のような結果が得られています.1つ目は,家計の保険購入の意思決定を左右するような客観的な地震確率に対する臨界値が存在し,臨界値を越えるような確率に直面する家計は保険を購入する傾向があることです.2つ目は,災害危険情報を集めている家計はその臨界値の値が小さいことです.このことから災害危険情報を十分に認知してもらうことで,災害軽減活動をより進めることが期待できそうです.



Conference on Market Quality (2012/11/2) 開催報告

11月2日(金)にウェスティン都ホテル京都で,Conference on Market Qualityが開催されました.

◆ Youngsub Chun (Seoul National University) “Subgroup Additivity in the Queueing Problem”


待ち行列(queueing)とは,何らかの財・サービスを享受するために待つ主体の行列ことです.例えば,病院や生産システム,空港などの設計などがあります.この行列に並ぶような確率的な振る舞いをするシステムの混雑現象を捉える,また効率的なサービス設計を行うような目的のために数理モデルを用いて研究を行っているのが待ち行列理論で,オペレーションズ・リサーチの1分野です.

 本研究はその待ち行列のなかでも,特にs-サブ・グループ可算性(s-subgroup additivity)と5つの配分ルールに関する研究です.s-サブ・グループとは本来n人の主体を扱う待ち行列問題を,より少ないs人ずつのサブ・グループの問題を用いて考えます.そして,主体の効用に関して適切な配分ルールを採用することで,n人問題の場合と同じ効用水準が達成できるというものです.

最初にある配分ルールがs-サブ・グループ可算性といくつかの基本公理(queue efficiency,Pareto indifference,equal treatment of equal)を満たす場合に,そのルールは(s+1)-サブ・グループ可算性が満たされることが報告されました.次に,理論的に2-サブ・グループを満たす4つの配分ルールと3-サブ・グループを満たす1つの配分ルールの満たす性質を紹介していただきました.

◆  Takashi Komatsubara (Kyoto University) “Price Competition or Price Leadership“


現実の市場において価格競争が観察されることがあります.一方で,電力会社などのように企業が独占状態にあるような場合,また複数の企業が暗黙的に結託(共謀)しているような状況も観察されることもあります.

しかし現代の多くの文献では,企業は独占力を持つ,あるいは共謀を維持することができないため価格競争を行うと初期設定で仮定されており,なぜ企業が積極的に価格競争を行うのかを理解することは困難です.

本研究では同質財市場において,初期設定ではなく複占企業の積極的な戦略的行動の結果として,価格競争構造が内生的に形成されることを説明することが目的です.供給に対する需要の相対的なサイズがある閾値を越える場合には,両企業は価格リーダーになろうとします.さらに企業間の費用の差がある程度大きい場合に価格競争が生じることが示されます.そうでない場合には,一方の企業は価格リーダーになり,別の企業は価格フォロワーになることが報告されました.

◆ Tadashi Sekiguchi (Kyoto University) “Multimarket Contact under Demand Fluctuations: A Limit Result“

 

本研究は,需要が不確実である場合にも企業が複数の市場で競争する場合に共謀が起こり易くなることを,無限回繰り返しゲームを用いて示しています.

需要に不確実性がなければ,複数の市場で競争する場合に,共謀が起こり易くなることは以前から知られていました.それに対して,Rotemberg and Saloner (1986)は企業が単一の市場で競争する場合には,需要が不確実なら共謀が起こり難くなることを示し,Bernheim and Whinston (1990)は(需要に不確実性がある場合でも)複数の市場で競争することは共謀を起こり易くする(少なくとも阻止することはない)ことを示しました.

報告では,需要の不確実性と複数の市場における競争という相反する要素が共謀の発生にどのように影響するかが述べられ,主要な結果として企業が競争する市場の数が増えるに従って共謀を阻止する要因は縮小することが報告されました.

 

◆ Satoshi Mizobata (Kyoto University) “Global Convergence of Russian Emerging Multinational Corporations“

 

多国籍企業は先進国の企業が途上国の資源と市場機会を求め,途上国がそれらを提供するホストとみなされてきました.しかし,2000年代からBRICsの台頭などから新興国の多国籍企業が注目を集めています.なかでも,ロシアの多国籍企業は多くの経済学者のテーマですが,組織構造という観点からロシアの多国籍企業を研究しているものは多くはないようです.

本研究はロシアの多国籍企業の組織構造に注目し,その発生と発展の前提条件,形成過程,進化と動機を探っています.ロシアは資源に恵まれているため天然資源や,エネルギー,冶金部門などに多国籍企業が多く,またそれらは政府や旧ソ連の遺産,CIS国との関連性が強いという特徴が挙げられます.そのため,特定の資本流出入ルートとその責任構造との強い関係,明確な所有権構造のない多国籍企業と産業構造が存在し,課税回避と危機的状況における政府援助に関して海外事業を利用するなどの特性があるようです.

このような議論から,新興国における多国籍企業理論の修正の必要性,とくにロシア型多国籍企業の存在の重要性が指摘されています.

 

◆ Andrei Yakovlev (The National Research University) “Industrial Associations as a Channel of Business-Government Interaction in Imperfect Institutional Environment: the Russian Case“

 

Business Association (BA) がロシアの経済発展に与えた影響についての報告されました.

多くの既存の実証研究ではBAの否定的な側面が指摘されていますが,報告では市場の失敗等の下ではBAが市場を支えるという肯定的な側面について論じられました.さらに次の二つの実証結果が報告されました.一つ目は,輸出や投資に積極的な企業はそうでない企業よりもBAに加入していることが多い.二つ目は,BAに加入している企業はそうでない企業よりも当局との関係が深い.つまり,BAに加入している企業とその地域の当局は互いに援助し合う関係にあるようです.

 

◆ Byung-Yeon Kim (Seoul National University) “The Political Economy of Private Firms in China“

 

本研究では,中国共産党との政治的結びつきと民間企業活動の関係を実証的に論じています.

類似の問題を論じている研究は存在するものの,それらは静学的な手法をとっています.本研究は中国の私企業の政治的関係を動学的に論じた最初の研究です.実証結果は次の通りです.起業家が中国共産党員であることでレントを得ているとは言えない.また,起業家が中国共産党員であれば,その企業はそうでない場合に比べて銀行から融資を受け易いものの,企業のパフォーマンス自体は向上しないということが報告されました.